松山地方裁判所 昭和25年(行)13号 判決
原告 選定当事者 山本徳 外一名
被告 生名村長
一、主 文
被告が昭和二十五年一月二十二日愛媛県越智郡生名村議会を解散した処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告らは主文同旨の判決を求めその請求原因として原告ら及び選定人等はいずれも愛媛県越智郡生名村議会議員であるが同議会(以下議会と略称する)は昭和二十五年一月二十二日(以下年号を略す)次に述べるような経緯に基き被告のため解散せられたすなわち議会の定員は十六名であるが当時その半数は欠員中のところ昭和二十四年十二月二十九日(以下年号を略す)開催の会議において福島議員が招集に応じなかつたので再招集の手続を経なければならなかつたにもかかわらず議会は議長において同議員に対し招集に応じるよう督促したことをもつて地方自治法第百十三条ただし書中の議長が出席を催告してもなお議員が出席しない場合に該当するものと誤解し議会が適法に成立したものとみなして会議を開き一議員の口頭による発案に基き条例において定まつている村長の俸給月額八千円を条例改正の形式をとらずして六千八百二十三円に減額することの議決をした。すると被告は昭和二十五年一月十二日(以下年号を略す)議会を招集し右の議題を「村長俸給再審の件」として再議に付したのであるが議会は前回同様の事情により福島議員に対して再招集の手続を経ないまま議会が成立したものとみなして会議を開き右提案は地方自治法第百七十六条第一項所定の十日の期間を過ぎ被告が異議権を喪失した後になされたものであつたのでこれを審議せずして却下したところ被告は右却下の議決を議会の被告に対する不信任の議決とみなし一月二十二日議会に対し解散を命じたのである。以上により明らかな通り一月十二日の議会を独立の手続として考えて見てもそれが定足数を欠き適法に成立していないからその議決は当然無効と言わなければならないのであるが十二月二十九日の議会もまた同様定足数を欠き適法に成立しておらずなおそのときの村長俸給減額の議案は口頭による提案であり地方自治法第百十二条第二項の強行規定に違反した重大なかしがあるから当然無効の議決であつてこれを再議に付したとしても法律上何らの効果を生じるものでなくこれにつきした一月十二日の議決はこの点においても当然無効と言わなければならぬ。
従つて該議決が有効であることを前提としてなされた被告の解散命令もまた当然無効である。
仮に右の理由がないとしても議会は被告の再付議案の提出が十二月二十九日の会議から十日を過ぎ異議権を喪失した後なされたものであつたからこれを却下したものであるたとえ該議案を却下したことが十二月二十九日の議決を維持したこととなりこれと同一内容の議決をしたとみなされたとしても右は形式上不信任の決議でないのはもちろん議会は村の財政上村長の俸給を減額する必要を認めてした議決であるから実質上も不信任の議決と言うことはできない。
叙上の次第で被告の議会に対する解散命令は所定の前手続を欠けつし当然無効であるからこれが確認を求めるものであると陳述し被告の本案前の抗弁に対し被告が昭和二十五年三月三十日(以下年号を略す)解散命令を取り消したことはこれを認めるも被告は取消までの間において財政上専決処分をして違法な支出を命令しているからその責任を追及するためまた昭和二十五年二月六日施行された補欠選挙は解散命令が無効であることを前提としたものであるところ被告はその効力を争つているから原告らは解散命令の無効確認を求める法律上の利益を有するものであると述べた。
被告は本案前の抗弁として被告は三月三十日昭和二十五年度の歳入歳出予算を成立せしめる必要上議会に対する解散命令を将来に向つて取り消し現に原告らが議員の地位に在ることを争わないのであるから原告らは本訴を維持する法律上の利益を有しないものであると述べ本案の答弁として議会が十二月二十九日の会議において議員の口頭による発案に基き条例において定まつている村長の俸給月額八千円を条例改正の手続によらずして六千八百二十三円に減額することの議決をしたこと、被告が右議題を再議に付したところ議会は一月十二日の会議において被告が異議権を喪失した後においてした提案であるとしてこれを審議せずして却下したこと、被告は右却下の議決を十二月二十九日の会議におけると同一内容の議決をしたものであつてこれは被告に対する不信任の議決であるとみなし一月二十二日議会を解散したこと、福島議員が両度の議会の招集に応じなかつたものであり被告は再度招集の手続をしていないことはこれを認めるも被告が異議権を行使したのは昭和二十五年一月六日議長田尾吉芳に対し再付議案を示し議会招集をはかつたときである。
直ちに議会を招集できなかつたのは山本議員が他出して招集に応じることができない事情にありそのため議会が成立しないので止むなく同議員の帰村を待つて招集することゝしたもので被告は適法に異議権を行使しているのであつて議会が再付議案を却下したことはさきの会議におけると同一内容の議決をしたとみなし得ること当然である。十二月二十九日の会議においてその形式はとも角として村長の俸給を不当に減額し助役のそれよりも低位にする議決をしたことは当日の議事の進行の事情と照し合わして明らかに被告に対する不信任の意思表示である。被告は両度の議会が適法に成立したか否かを調査する義務も権限もなく議会からの通告に基き議決が有効になされたものであると信じて解散を命じたものであつて該解散命令は適法であると陳述した。
三、理 由
先ず被告の本案前の抗弁について案ずるにこれは要するに被告はその自由裁量により三月三十日解散命令を廃止したから原告らはその無効確認を求める利益を有しないとの主張に帰するものであるところ地方自治団体の長が議会を解散することは地方自治法が自治団体の長に付与した重要な権限の行使であつて法のき束するところに従つて行われなければならないのであるが一度発した解散命令を取り消すが如きもその影響するところ甚大で益々事態を紛糾せしめるおそれがあるから軽々に許さるべきでなくもとより地方自治団体の長の自由裁量によつてなし得べき限りでないのであつて唯解散命令に重大なかしがありその無効を確認する意味において形式上これを取り消すことは別として当然無効と言うに足りない程度のかしがある場合においてこれを取り消すことができるかどうかも一概に論定することはできない。もとより新年度の予算を成立せしめる便宜上解散命令を廃止するが如きことは適法な処分とは言い難くそれによつて原告らが有功な解散命令によつて失つた議員の地位を回復することもあり得ないのである。果してそうであるとすれば解散命令が適法に行われたものであるか否かを審究することは原告らが現在議員の身分を保持しているかどうかを確認する意味において法律上利益があると思料されるからこの点について尓余の判断を用いるまでもなく本訴は適法であると言うべきである。
進んで本案について審案するに生名村議会が十二月二十九日の会議において条例で定まつている村長の俸給月額八千円を条例改正の手続を経ずして一議員の口頭の発案に基き六千八百二十三円に減額する旨の議決をしたこと、被告は右議題を再議に付し一月十二日の会議に上程されたところ議会は被告の異議権の行使が地方自治法第百七十六条第一項の所定の期間十日を過ぎているとの理由によりこれを審議せずして却下したこと、被告は右却下の議決を議会の被告に対する不信任の議決とみなして一月二十二日議会を解散したこと、当時議会の定員十六名の中半数八名が欠員中のところ福島議員が両度の議会の招集に応じなかつたので議会はその都度議長において同議員に対し招集に応じるよう督促したのみで適法に議会が成立したものとみなし会議を開き前述の通り議決をしたものであることは当事者間に争ないところである。
そうすると先ず十二月二十九日の議会は福島議員が招集に応じなかつたため適法に成立していないからその時の村長の俸給減額の議決は当然無効であつてこれを再議に付するの余地はなかつたものと言うべく従つてたとえ一月十二日の再議の議決が適法に行われたとしてもそれについての当日の議決は当然無効と言わなければならぬのみならず右一月十二日の議会もまた福島議員が招集に応じなかつたため適法に成立していないからこの点から見ても当日の議決は当然無効と言うべきで当日、被告から見て被告に対する不信任と目さるる議決がなされたとしても当然無効である。
従つてこれが有効であることを前提としてした被告の議会に対する解散命令は手続上の要件を欠けつし当然無効であることもちろんであつて本訴請求は先ずこの点において相当であるから尓余の判断を用いるまでもなくこれを認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 加藤謙二 橘盛行 水地巖)